大田区の障害福祉に係る要望書 2018 年 8 月 1 日
公開日: 2018年9月7日金曜日
2018 年 8 月 1 日
大田区 福祉部 障害福祉課 御中
大田障害者連絡会 代表 山田悠平
大田区の障害福祉に係る要望書
日頃より大田区の障害福祉の推進をいただきありがとうございます。大田障害者連絡会 は、障害種別を超えて障害当事者、家族、支援者らで構成される障害者団体として 1995 年 より活動しています。この度、秋の予算審議の前に構成団体・会員からの意見要望をとり まとめました。今年度より実施されるおおた障がい施策推進プラン(大田区障害者計画、 第 5 期大田区障害福祉計画、第 1 期大田区障害児福祉計画、大田区発達障がい児・者支援 計画)の内実に関わる事項ですので、お取り上げいただきますようお願い申し上げます。
要望項目
1.障害当事者の地域参画の推進
1)障害福祉の会議体 2014 年に批准した障害者権利条約第 4 条(一般的義務)において、すべての政策と計画 への障害者の参画が定められています。大田区が設置者となっている大田区障がい者施策 推進会議や大田区自立支援協議会及び障害者差別解消支援地域協議会は、とりわけ障害者 団体の推薦を受けた委員のさらなる参画が求められます。 現状の課題として以下が挙げられ、課題提起と課題解消を求めます。
①会議進行 健常者に適した会議進行が取られており、障害当事者の参画を阻害しています。障害者差 別解消法に照らして、合理的配慮の提供を行うことを(事前資料の扱い、進行についての 各種支援の公費拠出など)を後押ししてください。
②当事者の定義 大田区行政においては障害当事者と障害者の家族を当事者と定義している節があります。
障害者当事者と家族は役割や立場を異にしており、会議体参画の妥当性は別途検討されて しかるべきと考えます。特に、精神障害当事者の参画が進んでいないので進めてください。
③当事者参画の多様性 障害によっては、1 年間通じての参画に困難さを抱えやすい場合があります。氏名を公表 することでの参画に躊躇する者もいます。これらを勘案して、委員による通年参画に限ら ず、議題テーマに対してのオブザーバー参加も含め、多様な参画の仕方についての在り方 検討の場を当事者参画の下で開催してください。
2)福祉に限定されない地域イベント等 障害者の地域の暮らしは当然のことながら福祉に限られたものではなく、あらゆる地域イ ベントを大田区が主催、共催、後援で行う際には、障害当事者の参画を想定した合理的配 慮の提供を確認要項とする旨の要綱策定を望みます。
2.権利擁護について
前回のおおた障がい施策推進プランにおいては、本テーマは重点施策として位置づけら れ、とりわけ成年後見制度利用促進のみを方策としたことに強く憂慮していました。今期 の計画において、重点施策に成年後見制度利用をはずしたことを高く評価します。 成年後見制度は、後見人の性善説によって成り立つ制度で、会員の中にも後見人に対して 強い不信を持つ者もいます。本人のための権利擁護のシステムであるはずの制度が、本人 意向を無視した形で運用されていることの現状について取り上げていただくことを望みます。
3.制度利用について
今年 4 月の障害者総合支援法改正や第 5 期障害者福祉計画を受け改善が図られたものも あります。ただ、地域学習会で確認されてきた課題の最終解決に至っていないものも多く、 更なる改善が必要です。
1)入院時の介助保障問題 常時介助(見守りを含む)が必要な障害者は、入院時において、日頃の公的介助が利用 できず、安心した医療をうける機会を奪われてきました。また、現場の看護職からはむし ろ介助派遣を求められ、都度の行政判断に依拠して不安定な入院生活を強いられました。 この度、障害者総合支援法の改正によって、重度の四肢麻痺者(全身性障害)が入院時の ヘルパー派遣を許可されましたが、障害程度区分 6 で重度訪問介護を利用している者だけ に限定されています。大田区独自のやり方で入院時の対象幅を広げることを望みます。
2)移動支援サービス 障害者団体、事業者双方においてこの間確認されてきたのは、利用ニーズを充足する支 援量が不足している状況です。また、大田区の調査(平成 28 年度大田区障がい者実態調査 報告書)からもその傾向は読み取ることができます。一方で、行政は支給決定に対して利 用実績が少ないことを根拠にして、支援不足の現認に至っていません。また、支給申請に 際して窓口でヒアリングの際に、実質的な利用抑制を行っている状況もあり、統計数値の 正当性を持ち得なくしています。
3)就労継続支援 B 型 大田区の 18 歳時の就労継続支援 B 型の入所調整の仕組みでは、実習で2つの事業所から 「適」をふたつもらうことが条件となっています。つまり、自分が行きたい B 型事業所か ら「適」をもらっても、もう一つ「適」をもらえなければ行けない仕組みです。障害者自 立支援法制定以降、障害者はサービス利用の契約主体として位置づけられており、こうい った行政と事業者がふるいにかける方法については改めていくことを望みます。
4)地域移行 病院や施設からの地域生活への復帰をはかる本制度の利用促進はとても大切なことです。 とりわけ、本人への丁寧なヒアリングと意思決定にかかる体験の機会の提供などは、奪わ れ続けてきた本人の権利表明のきっかけとなり、地域へもどる大切なプロセスです。そし て、大田区にもどる方法については、早い段階から複数の機関が集まってカンファレンス を開らくことが大切です。このような方針を共有しながら、広く様々な障害種別を超えた 個別事案を検討する場の創設を強く望みます。 また、今期のおおた障がい施策推進プランにおいては、精神障害者の地域移行目標値が はじめて制定されました。しかしこれは都内への入院者をベースにした根拠数値であり、 都外入院者の把握とそれに伴う計画実数の策定までに至っていません。これらを考慮した 今後の計画制定を望みます。
4.バリアフリー推進
2018 年のバリアフリー法改正を受け、大田区においてもさらなるバリアフリー推進が求め られます。国土交通省では、交通事業者への接遇ガイドライン改訂を進めるなどしていま す。
1)研修の充実 これらを補完するうえでも障害の社会モデルは概念理解としてとても重要であり、これを 推進する大田区から全国に展開されている障害平等研修のプログラムを積極的に大田区と しても後押ししてください。
2)災害時の計画と施設整備 また、災害時の学校避難場所を始めとする大田区の公共施設すべてをバリアフリー化させ るための実効性を持たせた、当事者参画による在り方検討の場の創設を望みます。 特に区内における、車椅子使用者が利用する区立施設(特別養護老人ホーム含む)の避難 経路が車椅子のまま避難できない滑り台やライフタワーが多くを占め、被災時の避難に困 難が予想されます。人命に関わることであり、車椅子で避難できる避難スロープの設置(例 上池台障害者福祉会館、大田福祉工場)を計画化する必要があります。
3)具体的な要望箇所
①京急蒲田の北口にエレベーターの設置
②大田区の観光名所や神社仏閣に手すり(スロープ)の設置
③大田区役所にある喫煙所の段差解消
5.インクルーシブ教育の体現
障害による分け隔てられることのない教育機会は障害者権利条約25条にも謳われています。 今後さらなるインクルージョンを基礎とした大田区の教育環境整備を推進してください。 障害児の学校進学と学童の受け入れそれ自体に大きな課題があります。本人と保護者の意 向を尊重し希望通りの受け入れを行うことを基軸とし、そのための支援体制を充実させて ください。直接的に障害を理由としない場合でも、介助導入などをめぐり、受け入れを拒 否しているケースが見当たります。その対処として、行政機構の縦割りを超えて、教育委 員会と障害福祉課が連携をとり、民間事業者も交えたケース検討を積極的に実施してくだ さい。また、区が設置主体となり、インクルーシブ教育の在り方を検討する会議体を設置 してください。とりわけ、今後つくられる「大田区子ども家庭総合支援センター(仮称)」 設置にあたっては、重要論点にしてください。
6.精神障害者にも対応した地域包括ケアシステム構築に関して
今年度より実施される第5期大田区障害者福祉計画において、精神障害者にも対応した 地域包括ケアシステム構築を検討する会議体の設置が平成32年度までの実施目標とされ ています。以下の点を意見・要望申し上げます。
1)精神障害者の参画が必要です 精神障害者の当事者組織の推薦を受ける委員の参画を求めます。テーマに鑑みた最も考 慮される利害関係者は精神障害者です。
2)警察機構の参画を認めないでください 一部他地域では、警察機構の参画を検討するところもあるようです。精神保健福祉領域 においては医療と司法の役割が一定的に整理されてきた歴史的経過があります。厚生労働 省の担当所管との意見交換では、警察機構の参画は想定にないとの回答を得ています。福 祉が見守りという名の監視機能に変容することでは、真に地域で生活する精神障害者の安 心は獲得できません。絶対に警察機構の参画を認めないでください。
3)ピアサポート事業の推進 重点施策のひとつとしてピアサポート事業の推進がシステム構築では謳われています。 一方、この間、大田区に於いてはさぽーとぴあにて、地域生活支援事業としてピアカウン セリング事業を推進してきました。諸般の経過の中で、知的障害者相談支援員や身体障害 者支援相談支援員はピアカウンセリング事業の担い手たる正当性を担保してきました。し かし、精神障害者に関してはこの種の担保のなか運用されていません。つきましては、受 け入れ体制を充実させるために、精神障害者団体らと協働のもと、担い手育成の研修の枠 組みの設置と運営に関して新たにすすめてください。
7.精神障害者の障害者就労について
今年4月の障害者雇用促進法改正により、精神障害者保健福祉手帳所持者の法定雇用率 の算定がされるなどをうけて、今後精神障害者の障害者雇用数が大きく増えることがます ます進むことが予想されます。しかし、精神障害者の障害者雇用をめぐっては、定着率が 他の障害種別より芳しくないことが懸念材料となっています。また、社会的偏見を恐れる がゆえに、精神障害者保健福祉手帳所持者の取得に躊躇する当事者の数も多くいて、適切 な支援をうける機会が担保されにくい状況が続いております。さらに、障害者雇用の公的 窓口となっているハローワークでは、精神障害者に限り専門職の意見書提出をもって、相 談登録を受け入れる体制が敷かれています。障害者雇用へのアクセスのハードルは当事者 の前向きな気持ちを阻害するだけではなく、就労を巡る相談にもつながることがなく、大 きな問題となっています。これにより、無理をして障害を隠した就労を選択し、結果体調 を崩すケースが報告されています。大森ハローワークでの障害者雇用窓口の運用について は大いに憂慮します。これは定着率をあげるための実質的なスクリーニングであり、一方 で厚生労働省においては専門職の意見書は任意との通達をだしているとの回答を得ていま す。2016年には障害者差別解消法に則り、大田区行政に通報をしましたが、未だ改善 が確認されていません。 法改正の目的を着実にすすめるために上記のような現場での課題解消にむけて調査と改 善をお願いします。
8.障害者による家族介護
障害当事者が、親や子どもの家族介護や育児の担い手になる場合も数多くあります。障 害があることで、より一層介護や育児疲れは慢性的に起きやすく、とりわけ家族という関 係性に収斂されてしまい慢性的にさまざまな課題を抱え込みやすい状況があります。家族 が安定した関係性を保つために、障害当事者の介護や育児に関して公的窓口で悩みの相談 及びサポートができる仕組みを作ってください。
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